夫婦の溝、嫁姑の確執、家事分担に、仕事と家庭の両立。これらの語り手がほぼ女だったのは、昭和・平成のホームドラマの話。愚痴や不満をためこむのは女だけにあらず。性別で割り振られた役割をリセット、好き嫌いや得手不得手で分けるのが、令和のスタンダードへ。なんつって、真面目にまとめるつもりは毛頭ない。主要人物はほぼ男だが、マリッジブルーも疑似嫁姑戦争も描く「おっさんずラブ-リターンズ-」の話である。
2018年放送の続編で、設定はそのまま、男と男の純粋な恋愛モノの「その後」を描くという。航空業界という異なる設定にしたせいか、微妙にトーンダウン&客離れが起きた「おっさんずラブ-in the sky-」(2019年)の反省を踏まえ、レギュラー陣は継続しつつ、新たなメンバーも投入。
春田(田中圭)と牧(林遣都)の結婚生活は、すれ違いとけんかで始まる。天然×童心の塊の春田、仕事に集中したい牧。彼らが体現するのは、夫婦の溝やマリッジブルー、家事役割分担の不平等など。過去、男女間で展開されてきた温度差と犬も食わない痴話げんかである。
そこに現れたのが、黒澤(吉田鋼太郎)。春田を愛していたがフラれ、離婚&早期退職後に行方知れずだったが、謎のすご腕家政夫として姿を現す。再び春田に近づきつつ、牧に対しては小姑のような存在へ。男だけで「渡鬼」の世界を再現。
他意はないが愛のある無邪気と無神経をまき散らす圭は、相変わらずの無双っぷり。そんな男にほれたものの、日々イライラをため込む遣都は、世の妻たちの愚痴や不満を代弁するイタコっぷり。暴走が懸念される鋼太郎はやや抑えぎみだ。
そこへ新顔として登場したのが、井浦新演じる和泉。なにやら令和の流行であるタイムリープを匂わせる存在だ。さらに、おかか過多なおむすび屋・六道(三浦翔平)も隣人として登場。令和の流行である粘着質な束縛愛を匂わせる存在だ。
牧の元彼でパートナー探しに苦戦中の武川(眞島秀和)や、黒澤の元妻(大塚寧々)と結婚してメキメキ出世しているマロ(金子大地)、春田の幼なじみでシングルマザーになったちず(内田理央)、その兄でまずそうな飯を出す居酒屋の店主・鉄夫(児嶋一哉)、鉄夫と結婚した春田の同僚・舞香(伊藤修子)らも、微妙に成長&転機を迎えて健在。
新メンバーが純愛ラブコメをどうかき回すか、責任重大だ。不倫愛憎劇をもたらすのか、サスペンス要素を盛りこむのか、はたまた5年の年月にうまいことSF風味を散らしてくるのか。
つい比べてしまうが、テレ東がシリーズ化した「きのう何食べた?」はメシ系ドラマでありながら、男所帯の日常と感情の機微を細やかに描き、名作の域に突入。
スポンサーのつかみ方もうまく、商売としても成功。
けれん味と勢い、ただただイチャコラするだけでは終わりませんよう……。圭&遣都には、令和の深遠なる愛の表現を望んでいる。
週刊新潮 2024年1月25日号掲載
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