16年前の2月半ば過ぎの寒い日のことです。私は週に2回、中野坂上の病院に通っていました。その日は雪が降りそうなほど寒く、空は灰色に覆われていました。診察を終えた私は、バス停からバスに乗り込みました。満員のバスの中で座る席はなく、私は前方の乗降口の反対側に立っていました。
バスの中は暖房が効いていて、外の寒さを忘れるほど快適でした。しかし、次第に乗客が増え、バスはあっという間に満員になりました。立っている人々の熱気と暖房で、快適さは一気に失われました。
バスが静かに走り出した時、後方から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。私は赤ちゃんの姿を見ることはできませんでしたが、混み合ったバスの中で泣き叫ぶ赤ちゃんの声は、母親の苦労を感じさせました。泣き叫ぶ赤ちゃんを乗せたまま、バスは新宿に向かっていました。
次のバス停で何人かの乗客が降り始めました。最後の乗客が降りる時、後方から「待ってください、おります」と若い女性の声が聞こえました。彼女は立っている人々の間をかき分けるように進んできました。その時、私は子どもの泣き声が近づいてくるのを感じ、彼女が赤ちゃんを抱いている母親だと分かりました。
その母親が運転手の横まで行き、お金を払おうとすると、運転手は「目的地はどこですか?」と尋ねました。彼女は小さな声で「新宿駅まで行きたいのですが、子どもが泣くのでここで降ります」と答えました。
すると運転手は「ここから新宿まで歩いて行くのは大変です。目的地まで乗っていってください」と優しく言いました。そして突然、マイクのスイッチを入れ、車内放送を始めました。
「皆さん、この若いお母さんは新宿まで行くのですが、赤ちゃんが泣いて皆さんにご迷惑がかかるのでここで降りると言っています。
バスの中は一瞬静まり返りましたが、すぐに一人の乗客が拍手を始め、それが次第に広がっていきました。バスの乗客全員が拍手を送り、若い母親は涙を浮かべながら何度も頭を下げて感謝の意を表しました。
その光景は今でも私の心に深く刻まれています。
この出来事は、私にとって非常に大切な思い出です。運転手の優しさと、それを受け入れた乗客たちの温かさが、私の心に深く響きました。バスの中での短いひとときでしたが、それは永遠に忘れることのない感動の瞬間でした。
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