引っかかる松本人志の代理人コメント「『性的行為ない』『強要がない』」 元テレ朝社員弁護士が解説
2024/01/22

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 ダウンタウンの松本人志が22日、性的行為強要疑惑を報じた週刊文春の発行元である文藝春秋社に対し、名誉毀損による損害賠償金5億5000万円と謝罪広告の掲載などを求め、東京地裁に提訴した。松本の代理人を務める田代政弘弁護士は裁判に向けて、「記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく」「およそ『性加害』に該当するような事実はない」と争点を示した。これは何を意味するものなのか。昨年11月、テレビ朝日を退職した西脇亨輔弁護士が解説した。

 昨年12月27日の週刊文春報道から27日。弁護士の目から見ると、年末年始を挟み、急ピッチで準備した提訴ではないかと思う。

 昨夜、松本氏が文藝春秋社などを提訴したと報じられた。5億5000万円という請求は巨額で、裁判の手数料として訴状に貼る印紙代だけでも167万円に上る。

 その訴状で松本人志氏はどんな主張をしているのか。

 現時点では、その中身は公表されていない。しかし、松本氏の弁護士が発表したコメントをよく読むと、いくつかの手掛かりが浮かび上がってきた。

<松本の代理人・田代弁護士のコメント>

「提訴のお知らせ 本日、松本人志氏は、株式会社文藝春秋ほか1名に対して、令和5年12月27日発売の週刊文春に掲載された記事(インターネットに掲載されている分も含む)に関し、名誉毀損に基づく損害賠償請求及び訂正記事による名誉回復請求を求める訴訟を提起いたしました。

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今後、裁判において、記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたいと考えております。関係者の皆様方にはご心配・ご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます」

 まず、提訴の理由が「名誉毀損」としか書かれていない。性的行為についての記事なので「名誉毀損」だけでなく、「プライバシー侵害」を同時に主張することも考えられるが、今回は行っていないようだ。

 これは松本氏が今回の裁判を「記事が真実かどうか白黒つける」ために起こしたことの現れに思えた。「プライバシー侵害」はプライバシーを不当にさらしていれば成立するので、記事が真実かどうかは審理の中心にはならない。そこで、記事の真実性が議論の中心になる「名誉毀損」一本で戦うことにしたのではないだろうか。

 そして、提訴の対象は週刊文春の初回記事(2023年12月27日発売)に限定されている。

 週刊文春の2回目、3回目の記事は、後輩が松本氏に女性を上納する「システム」が強調されていた。

 これに対して、初回記事は「ダウンタウン・松本人志(60)と恐怖の一夜『俺の子ども産めや!』」という見出しで、松本氏個人の言動に比較的焦点が当たっている。

 その中には、「松本氏が女性の服を無理やり脱がそうとしてビリっと破れた(ただし、意図的に「破いた」

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とまでは書かれていない)」「『俺の子どもを産めや』などと言った」「全裸でベッドに引きずり込んできた」などの具体的な言動が書かれていた。松本氏側はこの記事に狙いを定め、書かれた一つひとつの言動を「虚偽だ」と主張していくのだろうか。

 ただ、私は松本氏側の弁護士コメントのうち、一節が胸に引っ掛かった。

「今後、裁判において、記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたいと考えております。」

 このコメントは、性加害に該当する事実はないという主張のために、今後(1)性的行為はないこと、(2)性的行為を強要した事実はないこと、の2つを各々主張立証していくように読める内容になっている。

 しかしこの(1)と(2)は本来、2つとも立証する必要はない。

「(1)性的行為はないこと」が立証されてしまえば、「(2)性的行為を強要した事実はないこと」は最初から考える余地がなくなる。そもそも、「性的行為」がなかったのなら、「強要」について考えるまでもなく、「性的行為はありませんでした。以上」で話が終わるからだ。もし、松本氏本人が「性的行為など全くない」と断言しているなら、弁護士コメントも「記事に記載されているような性的行為はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたい」

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となるようにも思うが、実際はどうなのだろう。

 松本氏は「(1)性的行為はないこと」を中心に闘っていくのか、「(2)性的行為を強要した事実はないこと」を中心に闘っていくのか。裁判の主戦場をどこにおくのかは、最も注目される。

 また、もう1つ注目しているのは、「今回の訴状に、どのくらいの証拠が添えられているか」だ。

 実は現時点で松本氏側が提出する必要がある証拠は、極論すれば「週刊文春のコピー」だけだ。

 名誉毀損の裁判は、大まかにいうと2つの段階に分かれる。

 第1段階では、問題の記事にどんな事実が報じられていて、それが原告の名誉を傷つけているかどうかを判断する。そして、名誉毀損裁判で原告側が証明をする責任を負うのは、この第1段階までだ。「自分について書かれた記事で名誉を傷つけられたこと」を証明できれば、いったん、名誉毀損が成立する。そのために必要な証拠は「自分のことを悪く書いた記事のコピー」だけだ。

 その上で第2段階では、報道機関側が「この記事は真実を報じた正当な報道なので、相手の名誉を傷つけても許される」という反論を行う。この反論をするために、報道機関は「記事が真実であること」の証拠を出す責任を負う。

 一方、記事を書かれた側には「記事はウソだ」と証明する義務はない。しかし、報道機関側の反論を見越し、先回りしてそれを否定する証拠を出すことができれば、その後の展開は有利になる。

 では今回、松本氏側はどうするのか。

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訴状に添えられた証拠の数は、松本氏側が最初からエンジン全開で闘うのか、それとも文春側の出方を見ながらじっくり進めるのかを示し、今後の裁判の進行を占うことになるだろう。

 いずれにしても闘いは始まった。私も経験したが、当事者にとって裁判は暗く、長い。その応酬は一体どのような真実へとたどり着くのか。その向かう先を見詰めていきたいと思う。(元テレビ朝日法務部長、弁護士・西脇亨輔)

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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